ちょうど1か月前、東京都は小平を拠点に活動されている英国式ブラスバンド、ハッピーペンギンブラスさんにご提供した拙作《nocturnal waddlers》が、2023年10月7日ルネこだいらで開かれた「ハッピーモーニングコンサート」で、天野貴仁さんの指揮のもと初演の運びとなった。今更ながら、このような機会をくださったハピペンのみなさん、曲を作り上げ、「引き上げて」くださった天野さんに改めて深く感謝申し上げます。
本作は、不思議なご縁(話せば長くなるからここでは触れないけれど、打ち上げではしゃべった)で繋がったハピペンさんに寄せる曲として、半年ちょっと前に制作したものだ。書きながら考えていたことを初演前にはチラッとTwitterに流したりしていたが、お披露目も終わったことだし、備忘録がてらまとめてここに書き残しておきたいと思う。
(作家は作品で語るべきで、ごちゃごちゃ喋るのは野暮というのはまああるけれど、少なくとも今回お聴きいただいた方、演奏いただいた方にとっては「答え合わせ」みたいに楽しんでいただけると思うので、今回はお見逃しください。)
結局これジャンル何やねん問題
2017年に京都大学吹奏楽団のOBバンドで自作自演するために《silhouetted》という曲を書いた。今見返すと色々思うところはあるものの、自分の好みが詰め込まれていて思い出深い。
※iPhoneで録った練習音源からのダイジェスト。イントロとテーマ2つ→ソロリレーからフルート、ホルン(セクション)、ユーフォニアム→トゥッティとアウトロ(アルトサックスソロ)。練習ではマイクを立ててないので、ソロはちょっと聞き取りにくいかもしれないけれどご容赦ください。
今回の曲はジャンル的にはその姉妹作的な立ち位置にあって、登場する3つのテーマのうち1つ目(後で整理するところの「テーマA」)は、実は《silhouetted》を書いてた頃にiPhoneのボイスメモに残していたものだった。どこかで使おうと思ってたメロディを、6年越しにやっと形にできたことになる。
ただこれなんてジャンルと聞かれると、自分でもよく分からない。Jフュージョンが中心だとは思うが、自分の好きなスムーズジャズとかアシッドジャズとかインストゥルメンタルファンクの要素も詰め込んでいる気がする。なので聞かれたら「Jフュージョン風」と答えているが、そもそもフュージョンって名称自体が複数ジャンルを「融合」したジャンルっていうことなのに、それにさらに「風」なんてつけたら結構意味がわからない。なんて名付けたものか、調べてみましたが分かりませんでした! いかがでしたか?(クソブログ)
話をブラスバンドに限らなければこういう曲って結構ある気がするけれど、ブラスバンドの編成にそれを落とし込むことで新鮮に楽しんでもらえるといいなと思い、実際やってみたというのが今回の《nocturnal waddlers》になる。
3つのテーマ
この曲の音楽上の大まかなストーリーを話してしまえば、
- 3つのテーマがあって
- それぞれが展開されていくんだけど
- 初登場時はさらっと流されていった2つ目のテーマが、結局はクライマックスで開花する
という感じ。
最初に出てくるテーマAは一番のメインとなるリズミカルなメロディ。路地をスタスタ歩いているような感覚。
続くテーマBは音数は多いものの、テーマAと対照的でなめらかなメロディ。
テーマCはいい感じのやつ。
これらや、これらの断片を曲中で組み合わせながら曲を作っている。例えば、スコアの1ページ目はこんな感じだが、
それぞれ水色部分がテーマA、赤色部分がテーマCの歌いだしのところから来ているものだ。
クライマックスまでとその後
イントロに続きテーマA→B→Cと一通りテーマが出揃ったあと、曲はソロリレーゾーンに入る。トップバッターはフリューゲルホルンなのだが、ここだけは曲中で唯一どのテーマにも関係のないことをやっている、真島○夫吹奏楽ラテンポップス風の場面になっている。なにこれ。いやなんか流れでこうなっちゃっただけで、特に意味はないんです。
これがブリッジとなって、ホルンとトロンボーンのアドリブソロ(書き譜あり)に繋ぐ。ここはテーマCのコード上で展開してるけれど、伴奏もちょくちょくカッコいいことをやってもらっている。
その後ノリがハーフテンポになって、コルネットのソロ。しれっとコード進行も変わっているが、これはテーマBからのものになっている。途中からユーフォとのデュエットになり、2人が絡み合ってクライマックスに繋ぐ(このあたりの流れはhappyちゃんのTwitterで見てほしい)。
ハピペンの練習日誌にも自分の思わせぶりなツイートが引用されてしまったが、コルネットソロのコード進行で匂わせているとおり、このクライマックスのメロディは、テーマBをびよーんと横に伸ばしたもの。もちろんそのまま伸ばしただけじゃなくて音の並びも変わっているが、旋律がたどるおおよその形はそのままだ。
実はこっちのクライマックスが先に思いついてたメロディで、ここから逆にテーマBを捻り出したというのが実際の作曲順序だったりする。(これは言われてみればなんとなく分かる方もいるかもしれない。)
「はじめまして」
大団円を飾るというテーマBというのは、最初に出てきてからあまり顧みられていないのだが、これを僕はハピペンのみなさんとの出会いに重ねて聴いていたりする。
ハピペンのみなさんに会うきっかけになったのは、元をたどれば学部生時代の偶然の出会いだが、少なくともそのときは「変な知り合いがひとり増えた」というだけのことでしかなかった。人間生きていれば色んな巡り合わせがあるし、彼が音楽家なことを思えば、こんなふうに繋がりが広がるのはまあ自然なことではある。それでも自分にとっては、一度にこんなにたくさんの人に出会えて、こんなに大きな編成で曲を書いて、演奏していただけるなんてことはそうそうないことで、稀な幸せであり喜びだった(もちろん「小さい編成は手を抜いている」という意味ではない)。だから、この出会いを僕なりに大切にしたかったし、祝福しておきたかった。
過去の偶然の出会いが巡り巡って、忘れてしまったぐらい先に、幸せな展開を迎える。テーマBが曲中で描く軌道は、ハピペンのみなさんとの出会いのストーリーでもある。
付け加えておけば、これは僕とハピペンの皆さんの間だけに成立する捉え方であって、聴く方にとってはただ「カッコよくて踊れるJフュージョン」であればいいと思っているし、もし(嬉しいことに)ハピペン以外で演奏いただくようなことがあれば「ちょっと譜割りが細かいけれど楽しいポップス」であればいいなと思う。作曲技法としても、動機を曲中でさまざまに展開するというのは、極めて普通で特別視するようなことはなにもない。ハピペンのために書いた曲だけれど、ハピペンのためだけの曲であるということではないし、「こう聴かなければいけない」という聴き方も特にない。
でも、せっかくご依頼いただいたのだから、ハピペンのみなさんには特別な意味を持つ曲にもなってほしかった。僕からの、声を振り絞った「はじめまして」にも聞こえたらいいな、と思った。だから、忘れかけた過去が花開くクライマックスは、リハーサルマーク「ペンギン」にある。
本作は初演で終わりではなく、複数回(!)再演いただけるらしい。オリジナル作品の再演はそう多くないことで、大変ありがたいことです。今後もハッピーペンギンブラスさんからの発信にご注目ください。